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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)16号 判決

原告 沼田政和

被告 浅草税務署長

代理人 金沢公正 磯部喜久男 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、また、本件相続財産の価額として被告の主張1(一)の加算項目のうち生命保険契約に関する権利の申告漏れの額一四万四七三五円を原告の申告額九一七九万七四三〇円に加算すべきであることも、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、被告の主張1(一)の加算項目の家屋の評価誤謬の点について判断する。

1  原告が本件相続により本件家屋を取得したこと、右家屋の昭和四七年度分固定資産税評価額が一二五四万三〇〇〇円であつたこと、本件家屋は、登記簿上、(一)種類、店舗、事務所、居宅(二)構造、鉄筋コンクリート四階建、陸屋根式、(三)面積、一階ないし四階各一四五平方メートル、屋上七・二〇平方メートルとなつており、その利用状況は、一階は店舗、三階及び四階は居宅(アパート)としてそれぞれ貸し付けられており、二階は事務所の形態をとつていたこと、本件の相続開始直前に代金四六二万一九〇〇円で二階の事務所を居宅(アパート)に改造する工事がされたが、本件の相続開始当時、右二階の居宅はすべて空家となつており、借家人が入居したのは本件の相続開始後であつたことは、当事者間に争いがない。

2  相続税における相続財産の価額は相続開始時における時価により評価すべきものである(相続税法二二条)ところ、右の時価は、基本通達の定めによつて評価した価額によることが合理的であることは原告も認めるところである。そして、家屋の価額は、原則として、一棟の家屋ごとに評価することが合理的である(基本通達八八)が、本件の相続開始直前に本件家屋の二階を四六二万一九〇〇円の費用を投じて改造する工事がされたのであるから、特段の事情がない限り、これによつて二階の資産価値が増加したと推認することが相当であり、また、本件の相続開始当時、一階、三階、四階は貸し付けられていたのに対し、二階は貸し付けられることはなく空家となつており、貸家と空家とでその価額の評価に違いがあることは当然であるから、本件の場合、右家屋を一棟の家屋として一括評価することは相当ではなく、右の事情を反映した時価を求めるには、一階、三階、四階と二階とを分けて、それぞれの価額を評価することが適切な方法であるというべきである。そして、一階、三階、四階の価額は、その部分に相当する固定資産税評価額から借家権の価額四割を控除した額によつて評価すべきであり(基本通達八九、九三)、二階は、その部分に相当する固定資産税評価額によつて評価すべきである(基本通達八九)。原告は、二階は貸家にするために改造したものであるから、これを貸家として評価すべきであると主張するが、相続税における相続財産の価額は、相続開始時における現況に基づいて評価すべきであるから、右主張は失当である。

ところで、<証拠略>によれば、前記昭和四七年年分固定資産税評価額は二階の改造工事を考慮しないで算定されたものであることが認められるのであるから、右に述べた一階、三階、四階と二階との評価額のみでは、右改造工事による資産価値の増加が評価されていないことになる。それゆえ、本件家屋の時価は、一階、三階、四階の評価額と二階の評価額に、さらに右改造工事による資産価値の増加額を加えた額によつて評価すべきものであり、右増加額については、通常の場合に家屋の価額を評価する基礎となる固定資産税評価額が存しないのであるから、実際に要した改造費用を基礎として評価するほかはなく、その価額は、被告の主張するように固定資産税価額が存しない建築中の家屋の評価方法(基本通達九一)に準じて、所要費用の一〇〇分の七〇に相当する金額と評価してもあながち不合理であるとはいえない。もつとも、右改造工事によつて従来の事業所としての内装等が取り壊されたのであるから、右取壊しによる資産価値の減少分に相当する金額はこれを右改造工事による資産価値の増加額から控除すべきであるが、的確な資料のない本件においては、右資産価値の減少分は前記の昭和四七年度分固定資産税評価額による二階の価額の二分の一を超えないものとみるのが相当である。原告は、昭和四七年度と同四八年度の固定資産税評価額が同一であることから、改造工事による資産価値の増加額と減少額とは相等しいものとみるべきであると主張するが、昭和四八年度の固定資産税評価額も右改造工事の結果を考慮したものでないことは<証拠略>により明らかであるから、右主張は失当である。

3  以上の方法によつて本件家屋の価額を評価すると、次のようになる。

(一)  一階、三階、四階の価額

前記のとおり、本件家屋の一階ないし四階の面積はいずれも一四五平方メートルで同一であるから、各階部分に相当する固定資産税評価額も同じであると推認すべきである。そして、昭和四七年度分固定資産税評価額は前記のとおり一二五四万三〇〇〇円であるから、一階、三階、四階の合計部分に相当する固定資産税評価額は、右一二五四万三〇〇〇円の四分の三に当たる九四〇万七二五〇円であつて、これからの借家権の価額として右九四〇万七二五〇円の四割に当たる金額を控除した五六四万四三五〇円が、一階、三階、四階の合計部分の評価額である。

(二)  二階の価額

前記固定資産税評価額一二五四万三〇〇〇円の四分の一に当たる三一三万五七五〇円が、改造工事前の二階の評価額である。

(三)  改造工事による資産価値の増加額

改造工事の費用は、前記のとおり四六二万一九〇〇円であるから、その一〇〇分の七〇に当たる三二三万五三三〇円から資産価値の減少分として右(二)の二階価額の二分の一に当たる一五六万七八七五円を控除した一六六万七四五五円が右増加額である。

したがつて、以上(一)(二)(三)を合計した一〇四四万七五五五円が本件家屋の価額となり、それゆえ、当事者間に争いのない原告の申告額七五二万五八〇〇円との差額二九二万一七五五円は、本件相続財産の価額に加算されるべきである。

三  次に、本件借地権及び本件貸家の価額について判断する。

原告が本件相続により別表一の本件借地権及び本件貸家を含む別表二の地上家屋を取得し、その価額をそれぞれ八二二六万八一九六円及び九一四万六八七〇円と評価して申告したこと、本件再々更正処分においては右借地権の申告額が五一万五九一五円の限度で過大であつたとして減額されていることは、当事者間に争いがない。

原告は、昭和四七年当時の本件借地権が存する土地の路線価は不当に高く評価されていたと主張するが、<証拠略>によつてもこれを認めるには足りず、他にこれを認めるべき証拠はない。

また、原告は、被告が、本件借地権の一部及び本件貸家をもつてした物納申請を却下したのであるから、これらの価値は著しく低いものであつて、被告の主張額(右借地権については被告の減額後の額、右貸家については原告の申告をそのまま認めた額)からさらに減額されるべきであると主張する。

しかしながら、原告の主張自体から明らかなとおり、被告が右物納申請を却下したのは、前記物納申請財産が管理又は処分をするのに不適当であると認められたからであつて(相続税法四二条二項但し書)、将来にわたる右管理又は処分の難易と相続開始時における価額とは常に必ずしも比例する関係にあるわけではないから、右却下処分がされたことのみをもつて物納申請財産の価値が著しく低く被告の主張額を下まわるものであつたということはできない。

さらに、原告は、物納申請財産の一部をその後現実に売却した際の代金額と比較しても被告の主張額は過大であると主張するが、原告の主張するところによつても二〇〇〇万円以上の不動産について七〇万円余の差異があるというにすぎないのであるから、不動産の取引ないし評価の実情に照らせば、右の程度の差異があることをもつて被告の主張額が時価を超えているということはできない。

してみると、他に特段の反証もない以上、原告の申告額をそのまま是認し、あるいはこれを減じた被告の主張額は、時価の評価として高額にすぎることはなく、適正な範囲内にあるものと推認することを妨げない。

四  以上のとおりであるから、結局、原告が取得した本件相続財産の価額は、原告の申告額九一七九万七四三〇円に生命保険契約に関する権利の申告濡れ一四万四七三五円及び家屋の評価誤謬二九二万一七五五円を加算し、土地の過大申告額五一万五九一五円を減算した九四三四万八〇〇五円となり、課税価格は右九四三四万八〇〇五円から争いのない債務控除額九、(千円未満切捨)七六万一〇二〇円を控除して計算した八四五八万六〇〇〇円となつて、本件課税処分がその範囲内で行なわれていることは明らかである。

五  したがつて、本件課税処分に原告主張の違法はない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 中根勝士 菊池洋一)

別表一、二 <略>

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